考えるおるにちん

おるにちんがマンガアニメその他について考えたこと

小説「保険に勧誘する悪魔」※自殺についての話です

 やあ、不思議そうな顔をしているね。君はついに自殺企図を遂げて死んで、月に帰ったかぐや姫と同じなんの憂いもない安楽を得られるはずなのになぜボクと話しているのかわからないだろう?どうして君がここにいるのかヒントをあげよう。「なぜ生きて幸せになるのにことごとく失敗した君が、死を遂げることだけは100%成功できるなんて考えられたんだい?」そう、わかっただろう、君は失敗したんだ。ここは煉獄だよ。君は傷ついてグチャグチャな心と同様に身体をグチャグチャにして終わらせようとしたけど、それは失敗したんだ。君は意識を保つ能力だけ残されて、天国からも地獄からも門前払いされたんだよ。そんな泣くよりも酷い顔をするなよ。ボクは悪魔だから、君に取引を持ちかけようと思ってこうして話しかけているのさ。

 ボクのような悪魔は捻くれているから、もちろん君に簡単に安楽を与えようなんて思っていないよ。殺してくれなんて叫んでも、ボクは君の魂とか欲しいと思わないし、もっというと魂の実在を信じてないからね。ボクに得る物がないなら取引は成立しないだろう?ボクが欲しいのは、君の血まみれの心が生む一切合切さ。今まで夥しいほどの自殺にしくじった奴らに声をかけてきた。最終的に彼らはボクの取引に乗ってきたよ。でもまだ足りない。ボクはそれを集めてあることを証明しようとしているのだけど、枚挙的な帰納では納得できなくてね。そこである仮説を立てた。血まみれの心が幸福にかろうじて辿り着く必要条件は、幸福のくじを当てるための確率論の完璧な理解能力を付与することじゃないかって。

 何?それを得たところで君に何のメリットがあるかって?そうだね、まだいってなかったね。ボクが君にあげるのはさっきの能力と、時を戻すことだよ。自殺企図の直前にね。救いはないよ。ボクがあたえるのはそうだね、死ねなかった時の保険を作っておく能力だとも言えるかもしれない。死は確実に安楽をもたらしてくれるけれど、残念ながら君たち人間は完璧な自己終了プログラムなんて持っちゃいないから、死に近づく行為ってのは結局不確実で以前より辛い状況で生き残るリスクが高いんだよ。それで、そう、保険をかけておくことをボクはお勧めしているのさ。生きるのに耐えやすくするための行動を同時にするんだよ。例えば、医者に継続的にかかるとか、カウンセリングを受けるとか、君を害する人から離れて暮らすとか。
 そうすれば生きていようが死んでいようが幸福に当たる確率をちょっとだけあげることができる。ボクが証明したいのはね、たとえ心の傷が膿んでいても、この保険があれば生きて幸福を得ることができるはずだということさ。さあ、君はどうする?この煉獄から出て生き地獄にもう一度戻る?でも今度は、もう一つ武器を持っている。

ねえ、悪魔ってのは、神様に遣わされたという意味では天使と同等の存在なんだよ。悪魔の唆しというのは、福音と同じなんだよって、悪魔としては言いたいね。