考えるおるにちん

おるにちんがマンガアニメその他について考えたこと

99匹の羊と黒い羊

99匹の羊の群れは、おっかない黒い羊を追い出せて安心だったが、牧人はそれを連れ帰るという。

 

黒い羊は恐ろしい罪を犯した、これまで現れた黒い羊たちにしたようにまた蹴り出そうと群れで一番身体の大きな羊が言った。そうだそうだと97匹は言った。1匹の仔羊は言った。「でもあれは僕のお母さんだ、白くなって帰ってきてほしいなあ。」一度黒くなった羊は元には戻らないんだよ。群れの一匹が諭すように言う。「本当に?本当にそうかしら?神様は羊を一匹も取り残さないといっているのに?」

 

「神様?その言葉をどこで知ったのだ」身体の大きな羊が詰問する。97匹は咎めるような顔をして仔羊をみている。「いいか、神様というのは牧人がいいように支配するためのシステムだ。黒い羊はもう白くならない。また罪を犯し、俺たちの分の草をはむ。なのに牧人は取り返す。だから俺たちは黒い羊を蹴り出さなければならないんだ」狭い囲いの中で身体の大きな羊が言った。仔羊もひもじかったのでもう何も言えなかった。でも心の中でお母さんが改心することを祈った。

 

牧人は結局黒い羊を山の向こうから見つけ出せなかった。帰ってきて、身体の大きな羊に一匹まるごと毛をからせろ、それがつとめだという。身体の大きな羊は「しかし、今は冬で我々には憩う屋根もありません、せめて皆から少しずつ刈ってまるはげにはしないでもらえませんか」と懇願する。腹の下に仔羊を隠しながら。誰よりも毛の薄い体でそう言う。

 

ある日とうとう牧人は仔羊を見つける。「こいつは捧げ物にしよう」逃げる仔羊を追いかける牧人は、身体の大きな羊の角に背中を突き抜かれ、動かなくなった。97匹は慄いて沈黙した。返り血が乾いて身体の大きな羊の顔を黒く染めた。「これで俺も蹴り出される身だ。だがそれはごめんだから俺はじぶんで出て行く」山の反対側に身体の大きい羊は歩いて行く。仔羊は「でも先生、僕はあなたに大恩があります。それに1人ではあまりに寂しいでしょう」と言ってついていく。「邪魔だ邪魔だ。有神論者め。お前は白い羊と助け合って暮らせ」身体の大きな羊は柵を飛び越え走り出しだした。97匹は誰も止めなかった。仔羊はそれでもついて行った。

 

身体の大きな羊は冷たい川べりにたどり着いて川面を眺めていた。仔羊は追いついて言った。「その川に1時間顔を突っ込んでください。苦しいし冷たいけれど、罪は雪がれ、きっとまた白くなれます」身体の大きな羊はあざ笑って言った。「そのようなことでは殺した罪を雪ぐことはできない。黒い羊は黒いままだ。やってみせるから確かめろ。それが済んだらお前は帰れ」身体の大きな羊は何時間もそうして見せた。黒いままだった。仔羊は泣きながら言った。「先生、僕と共にいかず、97匹の白い同胞たちのもとに戻らないのであれば、せめて山の向こうの私の母を訪ねてください。黒い羊同士助け合えるかもしれません。先生、白くても黒くても羊は1匹では生きていけません。先生を孤独に死なせたくないです。」「おこがましい有神論者め。俺は俺が決めたことしかしないし、その度に自分で責任をとってきた。今回もそのようにするまでだ。帰れ帰れ。」

仔羊は97匹の白い同胞の群れのところの方へトボトボ帰って行った。

 

97匹の群れは恐慌状態にあった。山の向こうから角を生やしズタズタの毛をまとった黒い羊の群れが目をギラギラさせて囲いに向かってきた。「牧人は来なかった!殺せ!奪え!何もかも壊してしまえ!!」黒い羊たちは囲いを突き破り白い羊たちを突き殺し踏み殺し、草を食べるだけ食べて去って行った。

仔羊はこの光景を見て呆然とした。その時白い羊が一匹だけ絶え絶えの息をして吐き出すように言った。「お前の母さんで、99匹めだったんだ…お前の母さんの…せいで…」子羊は駆け寄ったが彼は生き絶えた。仔羊の他は誰も生き残らなかった。

 

仔羊は憔悴しながら誰かの気配を求めて、生きた心地がしたくて、麓の牧人の小屋へ行った。粗末な小屋の机の上にはバイブルと羊の首に巻く鈴があった。「神様はこうなったときのことも書いてのこしてあるのだろうか」ページをめくっていった。『あなたがたのうちに、百匹の羊を持っている者がいたとする。その一匹がいなくなったら、九十九匹を野原に残しておいて、いなくなった一匹を見つけるまでは捜し歩かないであろうか。』「これじゃ何にもならないや」またページをめくると『隣人を愛しなさい』「白い同胞はお互いを愛して助け合った。先生なんか一番人を助けていた。でもこうなってしまった。愛などなんにもならなかったのだろうか。黒い羊達のせいだろうか。神などいなかったのだろうか。」

この問いの答えを僕は確かめなければならない」仔羊は首に鈴をつけて外に出た。「神はいないのかもしれない。だけど、先生はおれは偽善者だ、神はいないと言いつつ、僕の神の意志に沿うことをやっていた。先生は嫌がるだろうけど、僕はそう言う羊達の一匹一匹に神のみわざを見出す。それは、神のおかげなのはほんのすこし、あるいはないのかもしれなくて、実現させているのは羊たちそれぞれの意志なんだ。」仔羊は顔をあげる。鈴がチリンとなる。「白い羊でも黒い羊でも、僕は探し当てて一緒に囲いのない牧場へ行こう。助け合っていければいいし、それができなくて離れて暮らしても、時々は訪ねていこう。たとえそれが僕しかしなくとも。それは僕が答えを探すが故に負う責任だ。僕は行こう。」仔羊は、荒野を一歩踏み出した。

 

おわり