考えるおるにちん

おるにちんがマンガアニメその他について考えたこと

走れレズビアン足立区を

芽路スミカは激怒した。必ずかの邪智暴虐の議員を除かねばならぬと決意した。スミカには政治はわからぬ。スミカは、ツイッター廃人である。与太を呟き、フォロワーと遊んで暮らしてきた。けれども同性愛差別に対しては人一倍敏感であった。

きょう未明スミカは村を出発し、野を超え山越え、十里はなれた此のアダチクスの市にやって来た。芽路スミカには、父も、母もない。近々、花嫁を迎えることになっていた。結婚式も間近かなのである。スミカは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。

花嫁はこのアダチクスの市で石工をしている。芹奈チヨカである。芽路スミカと、芹奈チヨカは遠距離恋愛カップルである。その花嫁を、これから訪ねに行くのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

スミカは待ち合わせた市の食堂で親子丼を頼み、テレビのニュースに目を向けた。アダチクスの議員シライシが何ごとか述べていた。

「あり得ないことだが、日本人が全部L(レズビアン)、全部G(ゲイ)。次の世代、生まれますか」

「LやGが足立区に完全に広まってしまったら、子どもは1人も生まれない」

「LもGも法律で守られているという話になっては足立区は滅んでしまう」

(※注:以上朝日新聞デジタル『足立区議「同性愛者、法律で守られたら区滅ぶ」批判続出』https://news.yahoo.co.jp/articles/7a4f21dd2ecd5c2a9ae8c93591659ee29a27b5fd(2020年10月6日閲覧)より引用)

スミカは、隣の若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、全ての民は平等であった筈はずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。店主の老爺に、こんどはもっと語気を強くして質問した。スミカは、両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。老爺はあたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「議員は、人を差別します。」

「なぜ差別するのだ。議員は乱心か。」

「いいえ、乱心ではございませぬ。悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。ただ、生産性や合理性の問題だと言うのです。」

聞いて芽路スミカは激怒した。

「呆れた議員だ。生かして置けぬ。少なくとも議員にはしておけぬ。」

スミカは、単純な人間であった。芹奈チヨカと合流し、親子丼を食べたあと、買い物を、背負ったままで、のそのそアダチクス議会事務局に入っていった。たちまち彼女たちは、警備のものに捕縛された。チヨカは石工用の金槌を持っていたため、騒ぎが大きくなってしまった。スミカとチヨカは、議員シライシの前に引き出された。

「この金槌で何をするつもりであったか。言え!」

「私たちが婦婦(ふうふ)として住む、新居の基礎を作るためです。」とチヨカは悪びれずに答えた。

「おまえたちがか?」議員は、憫笑した。

「人の生き方を批判するつもりはないが、LGBT(の権利)を法律で保護するのも反対だ」

(※注:同上記事より引用)

 

芽路スミカはため息をつき、チヨカに目配せをした。芹奈チヨカは、めんどくさそうに胸元から飛行石を取り出し、掌に乗せ、芽路スミカはそれに自分の掌を重ねた。

「「ユリバルス!!!!」」

たちまち白百合の衝撃波がスミカとチヨカを中心として発された。光が満ち溢れ、人々の目は眩んだが、無傷であった。祝宴の馳走の欠片はアダチクスの市を隅々まで満たし、全ての人の飢えは満たされた。花嫁の衣装は、凍える人をおおっていった。白百合と桃色の薔薇の花弁が辺りに振り積もっていた。議員シライシは、衣服を吹き飛ばされ白百合の花粉でベトベトになった裸体で、こう言った。

「Lにこのような力があるとは!こどもを産む存在ではなくとも、わしの国に役に立つ存在であったとは!わしはおまえらの権利を認める!おまえらの望みは叶ったぞ!」

 

芽路スミカは腕に唸りをつけて議員の頬をぶん殴った。

 

 

 

 

(同性愛者が足立区を滅ぼすという白石区議の発言に断固抗議する目的でこれを書きました。私が激怒したから走れメロスです。)

 

(この記事は、自分のnoteからの転載し一部変更したものです。)

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